〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が
世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。
このピンクダイヤモンドを見てピンときた方は記憶力の良い方です。
そうです。
昨年の11月16日、ジュネーブで行われたSotheby’sオークションにおいて記録的な金額でLaurence Graff氏が落札したピンクダイヤモンドです。
24.78cts Fancy Intense Pink VVS2 Type2a
落札価格:CHF45,442,500(当時のレートで換算 $46,158,674 約38億円)
1カラット当たり(当時のレートで換算):$1,862,739(で約1億5,500万円)
落札後、Graff氏は美しさと稀少性向上のため再研磨を施しました。
結果は驚きのものでした。
23.88cts Fancy Vivid Pink Internally Flawless
もともと10カラットを越える大粒のTypeⅡaはInternally FlawlessやFlawlessが珍しくありません。
ほぼ純粋な炭素の結晶では大粒で無傷なものの割合が多くなるのは感覚的に理解できます。
このピンクも元々Internally Flawlessで使っているうちに表面ににキズがついてVVS2になったと思われます。
発表によると25箇所のBlemish(表面キズ)を取ったそうです。
再研磨してInternally Flawless になったことに驚いたのではありません。
驚きは、Fancy Intense PinkがFancy Vivid Pinkになったことです。
それも僅か0.9カラット削っただけで成し遂げたことは魔法のようです。
プロはFancy PinkからFancy Intese Pinkのように色が濃く見える研磨を施すことがあります。
素材そのものが濃くなるわけではなく、カラーストンのカットのようにガードルの下にバルジ(溜め)を作ったり、パビリオンに細かいファセットを追加してモザイク模様を細かくして濃さを演出します。
ちょうどプリンセスカットのようなモザイク模様です。
Fancy Intense PinkとFancy Vivid Pinkの濃さは同じです。
違いは彩度です。
文字通りFancy Vivid Pinkは彩度の高いIntense Pinkです。
再研磨により稀に彩度が上がることはありますが、このサイズのピンクでIntenseからVividになるかどうかはギャンブルそのものです。
破格の落札価格から考えるとGRAFF氏は最初からFancy Vivid Pink Internally Flawlessに仕上げることを念頭に落札したとしか思えません。
そして、その勝負に勝ったのです。
このピンクダイヤモンドは出品者の家族が60年前にHarry Winstonから購入したそうです。
“King of Diamond”と称された創業者Harry Winston氏が他界してから30余年が経ちます。
21世紀の“King of Diamond”との呼び声の高いGRAFF氏はこのダイヤモンドを手にすることでその地位を確かなものとしました。
資料、写真:GRAFFITI (GRAFF DIAMOND)