原田コラム

2014/04/01

変わるダイヤモンドの研磨地

〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が
世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。

 

Lesotho 25ct+ D IF TypeⅡa

インドのスーラット、イスラエルのテルアビブ、ベルギーのアントワープ、米国のニューヨークと聞いて何を想像するでしょう。
業界の方はダイヤモンドに関する地名とピンとくるでしょうが、私が業界に入った30年前は世界4大研磨地として教科書に載っていました。
「ニューヨークが研磨地?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
その当時は1カラット以上の大粒はニューヨークで主に研磨されていて、アントワープは0.3~1カラット未満、テルアビブは0.10~0.25カラットサイズ、スーラットは0.08カラット未満と研磨するサイズが分かれていました。
幅広いサイズを買うバイヤーは何箇所も回らなければならなく、複数個所回るのが一般的でした。
現在はインドを除く3箇所は研磨工の数から言うと研磨地とは言いがたく、それぞれの特徴は残しつつも集荷地として機能しています。

その中でインドだけは研磨地として更に重要性が高まり、メレーから大粒まで研磨していないものは殆ど無い程圧倒的な強さを誇っています。
インドらしい話ですが計画から30年以上かかて出来上がった新しいダイヤモンド取引所もとうとう昨年より本格稼動し始めて、物だけでなくサービスの強化も行われています。
更にインド政府の後押しもあり、研磨済み取引だけでなく原石取引も手中に収めようとしています。
原石取引はアントワープの牙城です。
当分の間ダイヤモンド取引におけるインドの重要性は高まることはあっても低くなることはないでしょう。

研磨工の数で言えば、インド以外では中国、メコン経済圏(タイ、ベトナム、ミヤンマー、ラオス等)、ロシアに多く、最近では産地の雇用対策でボツワナ等が急浮上していますが、生産性でアジア勢の優位は揺るぎません。

研磨技術のレベルにも変化が起きています。
以前は研磨のレベルが劣るものに「インド物」とか「イスラエ物」と言う言葉がありましたが、現在は死語となっています。
もともとどちらも研磨技術が低かったわけではなく主に形の悪い原石を研磨していたり、研磨地ブランドの弱さから歩留まり重視の価格訴求品を研磨せざるを得なかったのです。

現在はコンピューターによるシュミレーション、レーザーソーイング、モニターやセンサーを使った技術の向上によって最新設備さえすればある程度の研磨がどこでも可能となりました。
その代わり先端技術を使えば使う程それを使いこなす高度の技術者が必要となり、それが人件費の高騰を招き、せっかく工賃の安いところを求めて移ったのに期待したほどの効果を得られないのは皮肉であります。

近年量産品の研磨は殆ど行われなくなったアントワープやテルアビブではより付加価値の高い研磨が行われています。
アントワープでは以前はニューヨークで主に行われていた3カラット以上の研磨が多くなり、更に彼らの独断場であった1つ何億円と言う特別な原石の研磨はアントワープに移りつつあります。
テルアビブもファンシーシェイプの中心であったことから時計業界が必要とするような特殊な形を10分の1ミリ単位で揃える技術を磨いています。

研磨地の変遷をたどってきましたが、果たして皆さんのイメージと現実は合致したでしょうか。

画像は、レソト王国の鉱山から産出された原石からアントワープで研磨された25カラットを超えるアッシャーカットD IF TypeⅡaのダイヤモンドです。
33カラットのThe Elizabeth Taylor Diamondも手に取りましたが、一回り小さいながらこのダイヤの透明度も甲乙つけたいものがあります。