Pandemic drop 2020
パンデミックの年、ダイヤモンドマーケットに何が起こったか
2020年3月、De Beersは史上初めてSight(原石販売会)を中止しました。新型コロナウイルスの世界的感染拡大で移動が制限されたことにより、一カ所に購入者を集めての販売が出来なくなったためです。この危機を受けて大手鉱山会社は「量より価格」と言う戦略をとり、顧客である研磨会社を支援して約20%の減産を行うとともに原石購入の延期を許可しました。そして需要が回復した第3四半期には原石価格を約10%引き下げました。原石会社、研磨会社共に収益が減少し原石価格は約11%下落しましたが、戦略が功を奏して研磨済み価格は3%しか下がりませんでした。原石の販売方法も顧客の多いアントワープやテルアビブに原石を送っての検品やオンラインによる販売、オークションなども試みました。今後感染が収束してもこのような移動を伴わない販売方法がある程度定着すると思われています。
ダイヤモンドの生産量は2017年をピークに年平均5%減少し2020年は前年比20%減少しましたが、2021年には前年に休止していた鉱山の再開により2019年並に回復すると期待されています。しかし2020年にオーストラリアのアーガイル鉱山が閉鎖されたため、その増加分も相殺されることを考えると大きな増加は難しいでしょう。
長くダイヤモンド研磨の量、金額共に圧倒的なシェアを占めているインドは2020年に原石の輸入量が23%減少したにもかかわらず、世界の研磨済みダイヤモンド製造の約95%(重量ベース)のシェアを維持しました。高品質なダイヤモンド価格の回復が顕著でこのカテゴリーを研磨している研磨業者が最も恩恵を被りました。
世界のジュエリー市場はロックダウンによる店舗の閉鎖や結婚式のキャンセル等で打撃を受けましたが、消費抑圧の反動やその他のラグジュアリー消費(旅行、体験)の代替、オンラインビジネスの拡大によって15%の減少にとどまりました。
中国市場は感染の抑え込みに成功し、経済が世界に先駆けて回復して前年比マイナス6%と健闘しました。ロックダウンが解除されると海外旅行の禁止により国内消費が興隆しSNSやオンラインストアでの販売、海南島での免税販売が急増しました。
米国市場はロックダウンの延長や制限が行われて第2四半期に株式市場が暴落し、失業率が15%まで悪化したためジュエリーの売り上げは一時40%以上落ち込みましたが、政府がリーマンショックを大幅に上回る大型経済対策を迅速に発動したことにより雇用率が改善、加えてワクチンの普及による制限解除で第3四半期のホリデーシーズンにはジュエリー需要が急速に回復しました。日本、ヨーロッパ、インド、中東が軒並み20%以上落ち込む中、米国のジュエリー市場は対前年比マイナス15%に踏みとどまりました。
パンデミック下において、供給側では物流網が混乱しロックダウンによってサプライチェーンが寸断された結果B2Bのオンライン取引が増えました。需要側でも家計の収入減がジュエリーの消費意欲を下げましたが、ロックダウン中のオンラインによる購入は最大20%増加しました。このことは今後も直接の購入率は上がらなくとも、オンラインショッピングで調べてから小売店で購入する傾向は強くなっており、ネットの重要性が益々高くなることを示しています。
パンデミックを乗り越えて世界がコロナ前のビジネス規模を一日も早く取り戻すことを祈っています。
文中データ及びグラフの出典:BAIN & COMPANY The Global Diamond Industry 2020–21