原田コラム

2007/08/07

タイ産ルビー

〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。

 

古くからルビーは、ビルマのモゴック鉱山のものが代名詞でしたが、1963年に政変と宝石鉱山の国有化によってモゴック産ルビーが激減したため、1970年代からタイ産のルビーが主役になりました。
私が業界に入った頃は、タイ産がメインでした。
タイ産のルビーの特徴は、全体に黒味がかっていています。
色味はオレンジに近い赤から、パープルまで広く見られます。
その後、1990年代初めにビルマでモンスー鉱山が発見されました。
この鉱山のルビーは、本来黒味(青味)が内包されていてますが、高温加熱することで除去できるために、処理後はタイ産に比べて明るい赤色に仕上がります。
このモンスー産のルビーが市場に出始めると黒味の強いタイ産は敬遠されて、瞬くうちにモンスー産に席巻されてしまいました。
現在、皆さんが目にする殆どがこのモンスー産(加熱)ルビーです。

タイ産のルビーとビルマ産のルビーの大きな違いは、ビルマ産のルビーが紫外線に強く反応するのに対しタイ産はあまり反応しません。
この違いが明度が淡くなるとビルマ産の色味はピンクになっていくのに対し、タイ産は元の色味は殆ど変わらないことに現れています。

ビルマ産(加熱)のクオリティスケールタイ産(加熱)のクオリティスケールを比較すると良く分かります。

ここでよく見るとクオリティスケールの「6」の明度を比較するとビルマ産もタイ産も違いが分からなくなっています。
ビルマ産の一番美しい「6S」は、無処理でしたら「ピジョンブラッド」と呼ばれているものです。
では、タイ産の「6S」とどのように見分けたらよいのでしょうか。
答えは、自然光で見ることです。
部屋の中の明かりでは、同じように見えますが、自然光が入る窓辺で比較すると一目瞭然です。
ビルマ産は、内側から燃えるような美しい赤が湧き上がってきます。
タイ産は、殆ど変わりません。

これが、モゴック産の無処理の「6S」でしたら、更に透明度も高くなり、色に優しさも加わります。
これが、正に「ピジョンブラッド」です。
残念ながら、モゴック産(無処理)のクオリティースケールの写真がよくないので、美しさがお伝えできません。

モゴック産(無処理)の濃くて美しいものを「ピジョンブラッド」、タイ産(加熱)の濃いものを「オックスブラッド」と表現するのは、やはり欧米人は肉食だからでしょうか。
日本人が価値観を作っていたら、「生きている鯵の血」や「死んだ鯨の血」なんて表現になっていたかも知れませんね。