〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が
世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。
今年も世界的資源メジャーのRio Tintoが保有するオーストラリアのアーガイル(Argyle)鉱山のピンクダイヤモンドの入札がパース(オーストラリア)で、8月21日から始まりました。
その後ニューヨーク、ロンドン、香港と回って東京でも9月24~26日に行われます。
最終的にはシドニーで10月1~2日に行われて、落札者が決まります。
ここ数年、記録的な値上がりをしているファンシーカラーダイヤモンドの中でも、アーガイル(Argyle)鉱山産のピンクダイヤモンドは多くの宝石バイヤーにとって手がつけられないものになっています。
高値が続く理由は、メレーダイヤモンドのように小粒なサイズでも濃いピンク色が採れる唯一の鉱山だからです。
私の好きなアフリカやブラジル産のピンクダイヤモンドは、もともとの色が淡いので1カラットを超えるような大きさから美しくなります。
これは、産地によるエメラルドの色の特徴に良く似ています。
世界的に評価の高いコロンビア産のエメラルドは大きなサイズに魅力がありますが、メレーサイズのような小粒では殆ど色が抜けてしまいます。
これに対してジンバブエのサンダワナ鉱山産のエメラルドは、メレーサイズでも非常に美しい緑色を発します。
また、1カラットを超えるような大粒が殆ど産出しないのもアーガイル(Argyle)鉱山産のピンクダイヤモンドに良く似ています。
今回の入札でも65個(62.46カラット)の内1カラット以上は30個と言うことでも大粒が殆ど採れないことが良く分かります。
そのため、小粒のアーガイルのピンクダイヤモンドの装身具としての生かし方は、ギメル(Gimel)さんのようにたくさん敷き詰めて(パヴェセッティング)連鎖させながら美しさを作り出すスタイルが最適です。
また、アーガイル(Argyle)鉱山は露天掘りとしては既に鉱山の寿命を終えて、坑道を掘って地下の鉱脈を採掘する方法で2018年まで延命する方針が伝えられていることが高値に拍車をかけています。
枯渇が予想されている点は、ロシアのウラル産のデマントイドガーネットと共通です。
このダイヤモンドのように輝くグリーンのガーネットのディマントイドガーネットは、1860年代からロシアのウラル山脈で採掘されました。
当時欧米で人気のあったこの宝石の採掘は、1917年のロシア革命によって中止に追い込まれました。
短い期間に採掘され、美しいものは小粒が主流と言うところが、アーガイルのピンクダイヤモンドを彷彿とさせます。
その後、デマントイドガーネットは、オークション等の還流市場で主に取引されています。
美しいものは1カラット当たり1万ドルを超える値がつけられるものもあります。
しかし、産出量が限られているためにメジャーな宝石になれず、現在ではコレクターズピース(収集家向け)になっています。
アーガイル鉱山産のピンクダイヤモンドも同様な道を辿るのではないでしょうか。
産出が限られているのが宝石ですが、少なすぎると需要も限られるので多くの人が欲しがる宝石にはならないところが一筋縄ではいかないところです。
蛇足ですが、デマントイドガーネットはロシア崩壊後、採掘が再開されて少量ながら市場に出回っています。