〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が
世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。
先日、小粒のマーキスシェイプのダイヤモンド10個を菊の花のようにセットしたプラチナのペンダントヘッドを査定でお預かりしました。
いつものように肉眼で美しさをチェックして、ルーペで詳細を確認したところ、ダイヤモンドのファセットエッジ(稜線)が満遍なく磨耗していました。
「何だ、キュービックジルコニアか」
ダイヤモンドは、非常に硬いため一部が磨耗したり欠けたりすることはあっても、このように全体が磨耗することは殆どありません。
輝きが似ている場合は、大抵が硬度が低いキュービックジルコニアです。
しかし、いつもなら拡大しなくても肉眼で見たときに輝きの違いで見当がつくはずなので、念のため更に細かくルーペで観察しました。
「インクルージョン(内包物)がある。」
しかも、ダイヤモンド特有のインクルージョンです。
ここから頭の中は「何故?」「何故?」「何故?」のオンパレードです。
もちろん、硬いとは言えダイヤモンドでもこのように磨耗することはあります。
しかし、このように重ねあっているセッティングで満遍なく磨り減ることは経験上ありえません。
特にぶつかる事が少ないペンダントは、尚更です。
この時点では、まだ納得がいかず、顕微鏡で更に拡大してみたり、普段は殆ど使わないダイヤモンドテスターにかけたりしました。
何れの結果もダイヤモンドの特徴を示していました。
「もしかしたら、ペンダントのメーカーのダイヤモンドの保管が悪く、たくさんのマーキスを一つの袋に入れて長いこと擦れ合っていた傷んだものを初めから使ったのかも知れない。」
「そうだ、それしかない!」
と思ったものの、やはり合点がいきません。
その日は、もやもやした気持ちのまま、ダイヤモンドのペンダントとして査定を終わらせました。
数日後、査定の結果を所有者にお知らせしたときに、思い切って尋ねてみました。
「このダイヤモンドのペンダントですが、・・・。」
「ダイヤモンドが少し傷んでいるようですが、お心当たりはありませんか」
と恐る恐る聴きました。
「ああ、そのペンダントは、もともとブレスレットで使っていたものをペンダントに作り替えたの。」
「使っているときにぶつかったのかもしれないわね。」
「いつも、もう1本のダイヤモンドのブレスレットと一緒につけていたわ。」
「えっ、一緒におつけになっていたのは、どんなダイヤモンドのブレスレットでしょうか。」
「テニスブレスよ。」
これで、全ての疑問が解決しました。
全周をダイヤモンドが取り巻いているダイヤモンド ライン ブレスレット(テニスブレス)のダイヤモンドとマーキスのダイヤモンドが擦れ合って、磨耗したことが分かりました。
恐らくペンダントのようにマーキスのブレスレットが動いたので、満遍なく当たったのでしょう。
リングの重ね付けでは、石同士がぶつかって、磨耗したり欠けたりすることは良くありますが、ブレスレットの重ねづけとは思いもしませんでした。
更にペンダントに作り替えられては、お手上げです。
正に推理小説の世界です。
皆さんも宝石同士がぶつかる様な重ねづけは避けるようにしましょう。
いつもながら、現場は勉強になります。