〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が
世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。
○Mumbaiの重要性
アントワープに居ながらインドのMumbai(Bombay)の重要性を語るのは気が引けますが、避けて通ることが出来ません。
アントワープが研磨地から集荷地へとその機能を変えて久しいのですが、いまや集荷地としての地位も危うくなっています。
工賃の高騰により研磨が出来なくなってからも、多くの原石の取引が行われていることと、ユダヤ系の会社がイスラエルや東南アジアで研磨したダイヤモンドをアントワープに集めて販売していたので、その地位も保たれてきました。
90年代以降、インド系の資本が乗り込んでユダヤ系から主導権が移りました。
但し、その頃はDTC(De Beers)の原石販売のシェアが高く、インド系の躍進を恐れて、大粒石やファンシーシェイプに向く原石はインドには殆ど渡しませんでした。
21世紀に入り、DTCのシェアが低くなり原石の調達に制限がなくなると、インドの潜在能力が開花しました。
同時期にレーザーによるソーイングやコンピューターによる厳密な歩留まり管理が始まり、古典的な研磨地の優位は一気に失われました。
結果、あらゆるサイズ、種類のものがインドで研磨されてアントワープやニューヨークに持ち込まれました。
何故、インドで研磨されたダイヤモンドがアントワープやニューヨークに持ち込まれるのでしょうか。
それは、バイヤーが集まると言う以前に、GIAやHRDという国際的なレポート発行会社の存在があったためです。
その最後の砦もGIAのMumbai支店の開店で崩れ去りました。
規模の大きいインド系の会社は主な消費地に支店を持っています。
インドでGIAのレポートがつけられたダイヤモンドはアントワープやニューヨークを経由しないで直接消費地に送られることが多くなります。
その結果、アントワープにもテルアビブにも商品が減ってきています。
現在、Mumbaiが抱えている問題は、快適性に欠けるという点だけです。
世界のバイヤーがかの地で快適に過ごす事が出来たら、Mumbaiの地位は更に揺るぎのないものになるでしょう。
発展著しい中華圏や中東に近く、日本とヨーロッパの中間に位置していることも優位に働くでしょう。
実は、20年以上前にMumbaiの空港近くに新しいダイヤモンド取引所(Bharat Diamond Bourse)の開設が計画され、実際に出来上がっています。
既に殆どの会社が現地に部屋を確保していますが、周辺インフラが整っていないことと中途半端な数の会社が移った時のデメリットを考えて、未だオフィスの移転はこう着状態です。
いずれリーダーが現れて、一斉に移動が始まり、空港も含めて周辺のインフラが整備されれば、鬼に金棒のダイヤモンドセンターが登場します。
筋書き通りに事が運ぶか分かりませんが、これからもインドの重要性が変わることはありません。